■…老舗クリーニング店発・業界秘話「信一の下積み時代」…■
2代にわたる「たたき上げ」
昭和60年4月。
憲治は長男・信一を、まずできたばかりの草加工場に配属した。
業界初の女性工場長をはじめ、スタッフ達は信一を特別扱いせずに迎え入れた。
信一は、他の新人達とともにクリーニング作業の習得に励み、クレーム対応なども行なった。
慣れない仕事、初めて経験する顧客とのやり取り。
まさに「たたき上げ」の日々だった。
そして信一は、その経験に応じて、徐々に責任のある立場になっていった。
憲治にとって、まるで数十年前の自分を見るようだった。
裸で話し合う責任者のあり方
「父さん! いい?」
その夜、憲治はいつものように仕事を終え、一風呂浴びているところだった。
そこに信一が入ってきたのだ。
信一は、毎日憲治への報告と相談を欠かさなかった。
時にはこうして、男二人、湯船に浸かりながら話し合った。
「今日は、あるスタッフのミスで、こんなことが起きてね……」
「そうか。で、おまえはどう対処したんだ?」
「いや、応急処置はできたんだけどね。
ほんとうにその方法でよかったかどうか、悩んでいるんだよ。
特に、その失敗してしまったスタッフに対する対応でね」
「信一。失敗は叱るな。原因を追究しろ!」
いつも憲治は繰り返した。
「人は誰でも失敗する。問題はその原因だ。
個人を責めても、失敗は減らない。
なぜなら、その根源を取り除いていないからだ。
その人間は叱られたことで、ミスを起こさないようになるかもしれないが、いつか別のスタッフが同じミスを起こすだろう。
いったい、失敗の原因は何なのか?
ラインか、機械か、作業量か、作業時間の配分か?
それとも作業環境か?
では、その部分を解消するためには、どうしたらよいか。
自ら考え尽くし、そしてスタッフと話し合うことだ。
解決策を見出したなら、迅速かつ徹底的に実行する。
それが責任者のもっとも大切な仕事だ」
信一は深くうなづくのだった。
「ありがとう。父さん。さっそく明日、朝一でみんなに召集をかけるよ」
今度は憲治が深くうなづく番となった。 |